クロノスタシスとは?
—「時が止まった」と感じる不思議な現象
概要
クロノスタシス(chronostasis) とは、一瞬「時間が止まった」と錯覚するような知覚現象のことです。特に、腕時計を見たときに「秒針が止まっているように見える」ことがある、この現象がよく知られています。
名称の由来
- ギリシャ語で「時間(chronos)」と「停止(stasis)」を意味する言葉を組み合わせたもの。
- 直訳すると「時間の停止」。
発生する場面
もっとも有名なシチュエーションは次のようなものです:
- 目線を移動して腕時計を見る
- 秒針が一瞬止まっているように見える
- その後は通常どおり動き始める
この現象は、『視線の移動(サッカード運動)』と深い関係があります。
原因とメカニズム
1. サッカード運動と知覚のズレ
- 人間の目は視線を移す際、「サッカード」と呼ばれる高速な眼球運動を行います。
- この間、脳は視覚情報を一時的に遮断していると考えられています(サッカード抑制)。
- 目が新しい対象に焦点を合わせた後、脳が見た瞬間よりも少し前からの映像を補完して認識します。
つまり、脳が「時計を見た」と判断する少し前から視覚を埋め合わせているため、秒針が長く止まっているように錯覚してしまうのです。
2. 時間の知覚の歪み
- 脳内で補完が行われた結果、「最初の一秒」が実際よりも長く感じられる。
- この不一致が「時間が止まったように感じる」原因。
実験例
- 視線移動後に表示された対象物に対して「どのくらい表示されていたか」を問う実験。
- 多くの被験者が実際よりも長く表示されていたと感じる結果に。
日常での体験例
- 時計を見たときに秒針が止まったように感じる
- 素早く目線を動かしたあと、見たものが「一瞬静止している」ように感じる
クロノスタシスと脳の働き
- クロノスタシスは、脳がいかに現実を補完して認識しているかを示す興味深い例です。
- 時間感覚も絶対的なものではなく、脳内で作られていることが分かります。
関連する現象
現象名 | 説明 |
---|---|
サッカード抑制 | 眼球が高速で動いている間、視覚情報が遮断される |
時間の拡張 | 危機的状況などで時間が長く感じられる現象 |
フレーム補完 | 見ていない間の動きを脳が自動補完すること |
まとめ
- クロノスタシスは、時間が止まったように感じる視覚の錯覚。
- 視線移動と脳の補完機能が原因で発生する。
- 時間の知覚は、私たちが思っているよりも主観的で柔軟なものである。
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